コラム記事・研究会レポート

コミュニケーション医学の実際と可能性

2021/08/08
研究会

文・黒丸尊治(コミュニケーション医学研究会世話人代表)

去る12月20日(日)京都で第2回コミュニケーション医学研究会を開催しました。
研究会では、「オンラインコミュニティ・腰痛学校」を主宰する伊藤かよこさんと私(黒丸)がお話をさせていただきました。

心理療法の改善における共通要因

コミュニケーション医学における3本柱は、心の治癒力、自然治癒力、治療的自己ですが、その最も中心的役割を果たしているのが、心の治癒力です。
そして、医療現場において、いかにして患者さんの悩みや問題に対応し、希望や可能性を見出してもらえるようなかかわりができるかが、コミュニケーション医学の中心テーマになります。
その具体的な方法のヒントが、すべての心理療法で見られる改善に関わる共通要因なのです。

たとえば、治療者要因や信頼関係要因、治療の一般的要因(説明、期待感、儀式など)などです。
どんな心理療法であれ、患者さんやクライエントが、「この先生はいいかも」と思うような要素のある治療者による治療は成績がいいのです。
また、今の治療者要因と重なるところがありますが、患者さんと治療者との関係性がよければ治療効果も上がるのです。

患者さんの治療に対する期待感や希望、治療者の説明による安心感や納得感といった治療の一般的効果も当然、症状の改善に関係します。
コミュニケーション医学では、いかにこれらの要因を高めることができるかが、とても大切になってきます。

コミュニケーション医学の視点

まず、患者さんが何を悩んでいるのか、どうなりたいのかという目指すべきゴールや方向性を明確にする必要があります。
そうしないと、せっかくの時間も、患者さんの望む話とは別のところで話が進んでしまうことになってしまうからです。
話のゴールや方向性を明確にするために、「どうなったらいいと思いますか」という質問は必要不可欠です。

さらに、患者さんによっては、説明や介入、提案をすることも必要になりますが、その際に注意することがあります。
それは「正しい説明という暴力」になっていないかということです。
治療者は往々にして、医学的に正しいと思われていることを言いますが、それが必ずしも患者さんの思いに沿っているとは限らないのです。
にもかかわらず、「正しさ」を振りかざし、それを患者さんに押し付けようとすることが医療の世界ではしばしばあります。

ある未婚の女性が子宮がんになり、医者に手術が必要と言われました。
彼女が「子供は産めますか?」とたずねると、医師から「子供と自分の命とどちらが大切なんですか!」と怒られてしまいました。
以来、彼女は病院には行かなくなり、結局、最後はうちの病院(緩和ケア)で亡くなりました。

子宮がんの患者さんが手術を受けるのは、医学的には「正しい」ことです。しかし、それが必ずしも患者さんの意向に沿うとは限らないのです。
もしかすると説明の仕方によっては手術を受け入れ、今でも元気でいられたかもしれません。
患者さんの思いを無視して、「手術の必要性」を押し付けるのは、「正しい説明という暴力」といわざるを得ません。
説明や提案をする際には、あくまでも患者さんの意向や価値観を大切にしつつ、医療者側とのギャップがあった場合には、お互いが納得のいく落としどころを見つけることが大切になってくるのです。

また、ときにモンスターペイシェントと言われる人と、かかわらざるを得ないこともあります。
その際に大切になるのが、悪循環を切り、良循環を作るための工夫です。
結果として「思い込み」や「行動」が変わるような何かしらの介入ができればよいのですが、その方法や考え方は一人一人異なります。

また「儀式」にも「心の治癒力」を引きだす大切な役割があります。
例えば、点滴です。
点滴は病気を治すためのひとつの手段であり「治療行為」ですが、、コミュニケーション医学の視点からすると、点滴は「心の治癒力」を引きだすためのひとつの「道具」であり「儀式」という見方もできます。
患者さんは点滴をしてもらうことにより、安心し、これで良くなるという期待感を自ずと持ちます。つまり安心感や期待感を引きだすための「道具」であると同時に、そんな思いを引きだす儀式が「点滴をする」という行為なのです。

このようにコミュニケ―ション医学の考え方について、様々なお話をさせていただきました。

セミナーを録画した動画も販売しておりますので、ご興味のある方は関西支部のHPをご覧ください。
https://www.holistic-kansai.com/20-12mf.html#shimekiri
・「コミュニケーション医学とは」 黒丸尊治
・「慢性腰痛の改善は人生の改善」 伊藤 かよこ

なお、伊藤かよこさんの講演要旨は、協会年度誌『ホリスティックマガジン2021 寄り添いのまなざし』にも掲載されています。
https://www.holistic-medicine.or.jp/about/holistic-magazine/


黒丸 尊治(くろまるたかはる)
彦根市立病院緩和ケア内科部長/日本ホリスティック医学協会会長