コラム記事・研究会レポート

今なぜ、代替療法が注目されるのか?

2022/06/07
補完・代替医療

文・朴澤 孝治(朴澤耳鼻咽喉科院長)

はじめに

新型コロナウィルスの蔓延は、健康を脅かすばかりでなく、社会的にも影響が出ています。世界保健機構(WHO)は、「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます」と定義しています。まさに、新型コロナウィルスは、私たちの健康を奪っています。
コロナ禍による外出自粛や新しい生活様式への移行が、運動不足やストレスの原因となって心身に悪影響をきたす、『コロナによる健康二次被害』が注目されています。臓器に異常がないので、病院では診断がつかず、症状の改善も難しいものです。新型コロナウィルスの蔓延以降、私たちの生活がどのように変わり、健康にどのように影響しているか考えてみましょう。

ストレスと自律神経

私たち人間には、「サーカディアンリズム(概日リズム)」という体内時計が有り、24時間のリズムで、睡眠と覚醒をはじめとする様々な生物現象を繰り返しています。朝、太陽を浴びると、副腎からコルチゾールというホルモンが分泌され、昼の活動に必要なエネルギーを確保すると同時に、ストレスから心身を守っています。暗くなると、コルチゾールの分泌は低下し、代わりにメラトニンが作られます。メラトニンは、睡眠の維持を行う一方、日中に作られた老化の原因となる活性酸素の処理をします。夜遅くまでテレビやスマホ、ゲームをしていると、ブルーライトによりメラトニンの分泌が低下します。現在は、ステイホームやテレワークなどにより、サーカディアンリズムが崩れやすいので、肌が荒れたり、疲れがとれなかったり、様々な体調不良が起こりやすくなります。
一方、極度のストレスは、キラーストレスとなって、心身のバランスを崩し、死に至るような体の反応を起こすことがあります。キラーストレスから私たちを守るのが、前述のコルチゾールです。ストレスが多く、ホルモンの過剰な分泌が続くと、副腎が疲れてしまい、コルチゾールを分泌することができなくなります。すると、ストレスに負けて、慢性的な疲れ、やる気が出ない、朝起きることができない、などの症状がでてしまいます。
コロナ禍で、体調不良を訴えて当院を受診された240名の患者様の自律神経の検査をすると、半分以上の方は、自律神経のバランスが崩れていました。交感神経と副交感神経のバランスの乱れのパターンは、人により様々です。夜更かしで睡眠不足の方は、副交感神経が低下します。ストレスを感じながら、運動不足で発散ができなかった方は、交感神経がすり切れています。
自律神経のバランスが乱れると、天候の変化に影響されやすく、頭痛、腹痛、めまい、難聴、耳痛など様々な症状を訴えます。いわゆる、「気象病」です。気象病の原因は、気圧の変化で、温度や湿度の変化も加わると、症状が出やすくなります。気象病で悩む人は3対7で女性に多く、日本で約1000万人に上ると推定されています。

コロナによる健康二次被害

脳内の幸せホルモンといわれるセロトニンが十分にあると、感情に左右されずに、いやなことから頭を切り換えて、ストレスを上手に避けることができます。コロナ禍の生活では、こんな大切なセロトニンも欠乏します。夜更かしが多く、休日には昼近くまで寝てしまう昼夜逆転の生活リズム。デスクワークが主で、慢性ストレスがある。仕事が忙しく、運動をしない。スマホや、ゲームに熱中する。一人で食事することが多く、偏った食事をしている。当てはまる方は要注意です。女性のほうが、セロトニンが欠乏するリスクが高いと言われます。
セロトニンが不足すると、いやなことをいつまでもくよくよと悩み続けたり、すぐにイライラしたり、ちょっとしたことで落ち込んでしまうなど、いわゆるうつ状態です。急にお腹が痛くなったり、呼吸が苦しくなったり、疲れやすいなどの症状が出ることもあります。
このように、毎日健康に過ごすために、ホメオスタシス(恒常性)を保つ機能が、私たちには備わっています。自律神経、ホルモン、免疫、栄養などが、重要な役割を果たしています。1年半以上も続く、社会的な制約により、これらの機能が破綻してしまうことが、『コロナによる健康二次被害』の原因と考えられます。

代替療法を上手に取り入れる

これまでの医療を牽引した西洋医学は、欧米で発達した学問であるため、17世紀のフランスの哲学者デカルトの『心身二元論』の影響を強く受けています。物理的実態としての肉体と、魂、精神、意識などの機能を持つ心は、独立して存在するという考え方です。この影響で、西洋医学は物質である臓器の治療に先鋭化していきます。骨折を治したり、細菌感染を抗生剤で治したり、心筋梗塞になったときに、狭窄した血管を拡げて心臓の機能を回復させたり、急性に起こった病気を治すことが得意です。
ところが検査に異常がなければ、正常と診断され、それでも、体調が悪いと訴える人は、自律神経失調症、更年期障害、年のせい、うつ病などと言われてしまいます。西洋医学の欠点は、臓器しか治療の対象にしていない点だと私は思います。
西洋の考えと相対して、東洋では、心と体は密接なつながりがあり、分離して考えてはいけないという「心身一如」が基本の考えです。この考え方が、現代、特にコロナ禍では妥当で、自然です。東洋医学やアーユルヴェーダ、チベット医学などの補完・代替医療は、西洋医学とは病気の考え方、診察の仕方、治療法が異なります。2千年以上の歴史は、それぞれの治療に効果があることを示しています。
西洋医学で根治可能な病気は、これまで通りの医療で問題ありません。しかし、西洋医学では対応できない病気については、根治できる医療に変えていく必要があります。コロナ禍で、本当に健康な生活を過ごすためには、免疫、栄養、ホルモン、自律神経などのケアが行える補完・代替医療を加えた、ホリスティックな考えを取り入れる必要があります。

『HOLISTIC News LetterVol.111』より


朴澤 孝治 ほおざわ・こうじ
朴澤耳鼻咽喉科・統合メディカルケアセンターTree of Life 院長
東北大学医学部臨床教授/日本耳鼻咽喉科学会専門医/日本抗加齢医学会専門医/日本ホメオパシー医学会専門医/日本ホリスティック医学協会理事。米国ハーバード大留学中の基礎研究成果、東北大学病院助教授など長年にわたる臨床経験をもとに広く耳鼻咽喉科一般の診療を行う。2011年2月に朴澤耳鼻咽喉科・統合メディカルケアセンターTree of Lifeを開院。最新の現代医学に加え、漢方、ホメオパシーなどの補完医療も採用する統合医療を実践している。著書『花粉症は治る病気ですー毒を以て毒を制す、アイゾパシー療法』(パブラボ)など。