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“患者さんを幸せにする医療”10カ条 ~私が考える「治し人」「癒し人」の心得~

2018/11/21
コラム > 帯津良一コラム

文・帯津良一(おびつりょういち)
帯津三敬病院名誉院長、帯津三敬塾クリニック主宰。

“患者さんを幸せにする医療”10カ条
~私が考える「治し人」「癒し人」の心得~

1. 医療とは場の営み。医療者たる者、率先して医療と養生の統合をはかる

医療とは患者さんを中心に家族、友人、さまざまな医療者の織りなす場の営み。すべての当事者が内なる生命場のエネルギーを高めながら医療という場のエネルギーを高めることによって、すべての当事者が癒される。

2. 医療者はすべからく攻めの養生を。攻めの養生とは終わりなき自己実現の道

養生とは生命を正しく養うこと。日々生命のエネ  ルギーを高めながら、死ぬ日を最高に、その勢いを駆って死後の世界に突入するのが攻めの養生。医療者たる者、自ら実践して患者さんに範を垂れなければならない。

3. 攻めの養生の推進力は生命の躍動。すなわち心のときめき

生命の躍動によって生命が溢れ出ると私たちは歓喜に包まれる。この歓喜こそ免疫力や自然治癒力を高める最大の要因。医療者たる者常に初々しい心をもって歓喜を着実に物にし、場のエネルギーを高めるべきである。

4.人間は虚空からの孤独なる旅人。時に旅情にひたり、来し方行く末に思いを馳せる

旅情とは喜びとかなしみ、ときめきとさびしさなどが交錯するしみじみとした旅の想い。時に旅情にひたりながら、我が人生を俯瞰することによって、わが内なるやさしさを育む。

5. 互いの生きるかなしみを敬い、そっと寄り添い合う。医療者と患者との一体感

旅情の根底にあるのは生きるかなしみ。自らのかなしみを慈しみ、他者のかなしみを敬って寄り添い合うことによって、両者の一体感が生まれる。医療本来の温もりの根源はここにある。

6. 場を制するものは戦略。医療者はすべからく戦略家たれ!

医療を支える戦術には身体に生じた故障を是正する“治し”の戦術と下降した生命場のエネルギーの回復をはかる“癒し”の戦術がある。両者を統合して戦略に止揚して初めて医療なのだ。

7. 治し人は最強の武芸者たれ!あくまでもパワフル(Powerful)に!

治しは機械の修理と同じで、最高のテクニックを操って、短い時間で仕上げるのが望ましい。それが取りも直さず患者さんのためなのだ。だから治し人はいつもパワフルにより上を目指してもらいたいのである。

8. 癒し人はいつも一目置かれる戦友たれ!あくまでもヴァルネラブルに

癒しにはパワーは無用の長物。相手と同じ地平に立って、相手の力量に敬意を表し、一歩譲って接する戦友の関係がいちばんだ。中村雄二郎氏の言を借りれば、癒しを行う人はすべからくヴァルネラブル(Vulnerable)たれ!

9. 死後の世界への展望を持って、生と死の統合を目指してもらいたい

生と死の統合はホリスティック医学の究極で、攻めの養生の途次に立ちはだかる難関である。生きながらにしてこの難関を乗り越えて、いつでも死ねるの境地に至れば、患者さんには安心立命の境地が訪れる。

10. 患者さんが人間としての尊厳を全うすることを、サポートするのが医療の第一義

人生の幸せとは、生老病死をつらぬいて人間としての尊厳を全うすることである。治したり癒したりはそのための方便であって、医療の本義ではない。尊厳を引き裂くような治療法は、いずれは消え去る運命にある。

『HOLISTIC MAGAZINE 2018』より

帯津 良一 (おびつりょういち)
帯津三敬病院名誉院長、帯津三敬塾クリニック主宰。1936年生まれ。東京大学医学部卒業。医学博士。東大病院第三外科医局長、都立駒込病院外科医長を経て、82年埼玉県川越市にて開業。西洋医学に中国医学、気功、代替療法などを取り入れ、人間をまるごととらえるホリスティック医療を実践している。日本ホリスティック医学協会名誉会長。著書『死を思い、よりよく生きる』(廣済堂出版)、『ホリスティック医学入門』(角川書店)、『代替療法はなぜ効くのか』(春秋社)、『後悔しない逝き方』(東京堂出版)他多数。