コラム記事・研究会レポート

田舎・農村地域におけるコミュニティ―ベースなホリスティックヘルスの試み

2016/12/26
コラム

文・山本 竜隆(やまもと たつたか)
WELLNESS UNION(朝霧高原診療所・富士山靜養園・日月倶楽部)代表

田舎・農村地域におけるコミュニティ―ベースなホリスティックヘルスの試み

朝霧高原診療所での試み

私の自宅には水道やガスがなく、電気と薪、敷地内の湧水や井戸水で生活しています。しかし薪ストーブでの生活は、芯から体が温まり、心が癒され、自然水での飲食や入浴は、水を恵んでくれる山や森林、汚水が流れ出ていく先など、周囲の自然環境に敏感になりました。また、鳶や鷺、野鳥、鹿や野兎などが敷地内に出入りするなど、多くの動物たちと自然を共存しているという実感があります。このような日々の生活の中で、都市部での生活ではなかった自然の尊さや、物事のプライオリティー(優先順位)が明確になったように思います。
朝霧高原診療所の活動は、疾病の治療だけではなく、あくまで地域の健康増進活動の一環として養生医療があるとの考えから、体操やヨガ、色彩療法、また室内で行う吹矢呼吸法やフィールド吹矢なども実施しています。
そのほか「富士山からだの学校」では、様々な滞在プログラムを、地域の自然資産や人材を活かして、また地域の自治体や企業などと協力して運営しています。

周知のように医療過疎地問題は、大きな社会問題となっています。しかし医療過疎地の多くは離島や山間部で、自然資産に恵まれています。このような環境に医療機関を開設することで、地域貢献は果たせそうではありますが、実際には地域人口や人材確保の面で、保険診療のみでは運営が厳しいのが現状とされています。
そこで、都市部からみた魅力と医療過疎問題を融合したのが、田舎・農村や森林地域での統合医療のスタイルとなるのです。地域貢献型(地域医療)と地域資源活用型(滞在型自然療法)の両輪で進めることが、運営面においてもひとつの良い医療モデルになると確信しています。少なくとも欧州ではそのような成功事例が多々あるからです。

自然欠乏症候群という考え方

近年、欧米では自然欠乏障害 Natural-deficit-Disorder(自然欠乏症候群)という言葉が使われ始めているようです。 この言葉はLAST CHILD IN THE WOODS「あなたの子どもには自然が足りない」において著者のリチャード・ルーブが提唱しています。(翻訳本:春日井晶子)自然欠乏症候群によると、自然から離れることで人間が支払う対価で、人間の感覚の収縮、注意力散漫、体や心の病気を発症する割合の増加があるといいます。

さて、自然欠乏症候群には、どのような背景があるのか、人間は数千年、数万年と自然のリズムに従い生きてきた動物の一種であり、遺伝子にも、その影響が刻まれています。しかしここ数十年の、ライフスタイルや、環境や食品などには、自然界には存在しなかったものが多数あり、特に都市部における生活においては、その割合や頻度が増加しています。このような動物の一種である人間にとって、とても不自然な状況が続くことが、様々な症状や疾患の出現につながると考えられます。
都市部での生活において、家を出てから帰宅する間、土や草の上を歩くようなことはあるのでしょうか?皆様はいかがでしょうか?自然欠乏症候群に対する予防や処方箋は、少なくとも化学薬品ではないはず。まさに自然を活かしたホリスティックヘルスの出番ではないでしょうか。
“下医は病気を治し、中医は人を治し、上医は社会を治す”と言われていたように、自然環境や社会、生活全般を含めた幅広い視点で、人の健康や医療をとらえて実践していくことが、本来の医療のあり方、医師としての活動ではないかと考えています。日本各地の田舎・農村地域は、統合医療実践のフィールドとして適していると同時に、医療過疎問題という観点からも、ホリスティックヘルスの発展という側面でも意義があるのではないかと思います。

あなたは自然欠乏症候群?チェックリスト

①日の出と日没を意識して生活している
②木材など自然素材の住宅に住んでいる
③静寂さや自然の音などを感じやすい場所で活動している
④自然の香りを実感しやすい環境で活動している
⑤自然素材の衣服を着ていることが多い
⑥携帯電話やPCなどに接することが少ない
⑦長時間の自動車運転や電車通勤(通学)をしていない
⑧主に自然食を摂取し、化学薬品は摂取していない
⑨飲料物は、自然水や有機栽培などでつくられたものである
⑩電気毛布や電子レンジなど、電気製品は用いていない
⑪日常的に森林浴、日光浴などをしている
⑫一日の中で、土や芝生、砂浜などの上をあるくことがある

『ホリスティックマガジン2016』より

山本 竜隆(やまもと たつたか)
WELLNESS UNION(朝霧高原診療所・富士山靜養園・日月倶楽部)代表
専門は一般内科、東洋医学、予防医学、統合医療。聖マリアンナ医科大学卒業。米国アリゾナ大学医学部の統合医療プログラムを修了後、統合医療ビレッジチーフプロデューサー兼院長、聖マリアンナ医科大学予防医学・昭和大学医学部第一生理学非常勤講師、中伊豆温泉病院内科医長等を経て 2009年に朝霧高原診療所を開院、2013年に滞在型自然療養施設・富士山靜養園を開設。