コラム記事・研究会レポート

人生をつなぐ介護支援

2020/06/10
コラム

◎文・石橋 建三

介護保険制度が施行されて2020年で20年となります。しかし、制度があることを何となく知ってはいても実際に家族の誰かに介護が必要になった時に介護保険で何ができるのか、どこの誰に相談すればいいのか、手続きや費用はどうなのかなど、多くの人が悩むのではないでしょうか。

これらについては国からの情報発信が不十分だと思いますので、今後当協会からも情報を発信する機会を増やしていければと考えています。
当治療院でもここ数年、来院される方々の高齢化やご家族の介護に関する相談が増えたことで、介護の分野に目を向ける必要性を感じ、2016年に居宅介護支援事業所を併設させ、介護保険事業をスタートさせました。
そこに至るまでに介護保険のしくみや介護業界のさまざまな動きについて学ぶ必要があったため、専門書、研修資料などに目を通すことが増えたのですが、その中には全人的ケアとしての理念が数多く述べられていることに驚きました。今後すべてがその通りに実践されるようになれば、まさにホリスティックな場と言えるでしょう。

そのようなケアを実践していくには、当然多職種との連携も不可欠となります。
在宅の要介護者のために提供する介護サービスには、本人が通う通所介護、自宅に介護に来てもらう訪問介護、訪問入浴、安全な生活をサポートするための杖、手すり、車椅子など、さまざまなものを提供する福祉用具サービス、そして訪問看護、訪問リハビリ、通所リハビリといった医療系のサービスなどがあります。

要介護者とその家族を中心に、各サービスに携わる専門家たちが必要に応じてつながり、主治医をはじめ、地域のボランティアなどを含めた支援チームがつくられ、そのチームのまとめ役としてケアマネジャーがいます。チームでは担当する要介護者の支援に必要な情報を共有し、定期的に要介護者宅に集まり、本人と家族と一緒に現状を確認・評価し、その先の支援方法を話し合って方針を決定します。そのため必然的に要介護者が生活する地域でのネットワークが必要となります。

地域包括ケアシステムとは

国が2025年までに整備を進めている「地域包括ケアシステム」というものがあります。これは、住まい、医療、介護、予防、生活支援の5つのサービスを一体的に提供できる体制を、地域ごとに構築しようというもので、自助(自分のことは自分で)、互助(助け合い)、共助(保険料による社会保険)、公助(公的資金による社会保障)を構成要素としています。

ここでいう「地域」とは日常生活圏域を指し概ね30分以内に駆けつけられる範囲を想定しています。このシステムは理想的ではありますが、現段階の個人的な印象としては、もともと組み込まれていない業種は入れない、入りにくい雰囲気が感じられ、場合によっては要介護者が隣近所との助け合いから離れて、公的な介護サービス事業者との関係だけになってしまうのではないか、という心配もあります。
自助、互助の面でもう少し広い視野で社会資源に目を向け、さまざまな分野の人たちがかかわりやすいシステムになって欲しいと思います。今後は地域包括ケアシステムのホリスティックモデルなどを提案できるようにしたいと考えています。

希望をつなぐ介護支援

介護は誰にとっても他人事ではなく、明日にでも親や自分の身に起こることだという認識は必要です。また、介護保険は一定の条件に当てはまる40歳以上の人も対象となるため、高齢者支援とは違う視点も必要になります。

私の担当で、脳血管疾患によって片麻痺となった50代のプロスポーツ選手がいます。このような現役世代の要介護者には寿命を延ばす支援ではなく、希望をつなぐ支援が必要になります。その際、過剰なサポートが自立を妨げるという可能性も頭に入れておくべきです。この人は、歩行が不自由で転倒リスクが高いため、退院時に病院のソーシャルワーカーから自宅動線で段差をなくすよう、介護保険による住宅改修が提案されました。
しかし私は、この人にはよほどの危険性がない限り段差をなくすのではなく、段差を克服する必要があると判断。本人とご家族とで話し合い、段差を残すことを理解していただきました。本人もその時に「今後へのモチベーションが高まった」と言ってくれました。ある程度の不自由さをあえて残すという選択も、希望をつなぐ介護支援では必要な考え方だと思っています。

人生をまるごと見て支援する

居宅介護支援では、実際に自宅を訪問して生活の場から感じること、実際に目で見なければ分からないこともあります。
治療院に通院している人が、ある手術を機に介護が必要となったため、そのまま私がケアマネジャーの立場で担当することになりました。70代のご婦人で、15年前にご主人を亡くされ、独り暮らしですが、性格も明るく活動的な人でした。ご主人との死別から立ち直り、今では友人たちと共に独りを楽しんでいるようにさえ思えました。
しかし、初めて自宅を訪問した際に私が目にしたものは、生前使われていたままの状態で残されているご主人の書斎に、まるで今でも使われているかのように置かれた本や洋服掛けにかかったままの服でした。15年経った今でも片付けることができないのだそうです。

通院されている時には感じることのできない一面を知ることができました。やはりその人の生活の場に入らなければ分からないこと、触れることのできないものがあり、実はそこが支援のポイントになる大切な要素だったりもするのです。
特に高齢者への支援には、その人が生きてきた体験が活かされていないといけません。この人はどのように生きてきた人なのか、どのように最期を迎えたいと思っているのか、その人の価値観や人生観にも目を向け、家族との関係性や社会とのかかわりなど、その人を取り巻く環境も含め、過去と現在、そして未来をつないで支援していく意識が大切だと思います。

今後の活動への思い

介護保険制度ではことあるごとに「利用者(要介護者)中心」という文言が使われますが、現実には利用者にストレスを与えるような「制度中心」の、不要とも思えるルールが多いのも事実で、今後は制度の改善も必要だと思っています。

最初は脳血管疾患モデルから始まった介護保険制度が認知症、老々介護、独居高齢者問題に変化してきています。当協会でも「介護支援研究会」という形で、社会の変化に対応しながら、要介護状態であっても、与えられた条件や環境の中で、人としてより豊かに生きていくことへの支援のあり方を追求し続けたいと考えています。

『HOLISTIC MAGAZINE 2020』より◎文・石橋 建三
港北治療院 院長/ 按摩マッサージ指圧師 / 健康運動指導士 介護支援専門員(ケアマネジャー) /NPO法人日本ホリスティック医学協会理事