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私の考える大ホリスティック時代の健康観とは

2017/12/12
コラム

船戸 崇史 (ふなと たかし) 
船戸クリニック院長。当協会理事。

私の考える大ホリスティック時代の健康観とは

病気とは「私たちの身体や心に不都合や不調を生じた状態」と言われます。起こしてしまった状態をillnessと言い、起こりそうな状態をSickness(未病)と言います。従来、この未病の状態をいかに早く見つけ予防に努めるかが重要視されてきました。これを「養生」といい東洋医学が得意とします。この未病の状態すら、その人の性格、思考法、価値観の結果としての「生き方」の問題であり、深く人の「心」や「生き方」まで転換を促すのが従来のホリスティック医療であったと思っています。

しかし、現代そのもう一つ上の次元の健康観が必要となっていると、外来診療をしながら感じています。上の次元とは「さらなる病気の意味、理由、原因」の次元の健康観です。私は憚りながらそれを「大ホリスティック時代の健康観」と名付けました。以下はまったくの私見(仮説)ですが、その健康観を簡単にご紹介したいと思います。

日本ホリスティック医学協会の会報誌の巻末に「ホリスティック医学とは」に以下の記載があります。「健康や癒しとは、身体だけではなく目に見えない精神・霊性も含めた人間全体性と深く関係がある」。

この霊性とは何でしょうか? これは会報誌VOL96で、帯津先生がはっきりと書かれています。要約すると「霊性の医学とは第8識つまり阿頼耶識(あらやしき)の世界観がベースになる。私たちの命とは死後の世界も含めた虚空一杯に広がった世界である」
では、死後の世界まで含めた健康や癒しとは、従来の世界観とどう違うのでしょうか? 私は次のように考えてみました。
仮定① 「人は、この世とあの世(死後の世界)を往還する存在であり、あの世から願い(目的)を持ってこの世へ生まれてくる」
仮定② 「しかし、その願いは生まれると同時に忘れてしまう」
こう仮定すると、従来の健康観や病気観はまったく新しい見方ができるようになります。

新しい人生観

私たちはすべからく、①本来で本当の願いを持ってこの世に生まれてきたが、②それを出産とともに忘却したと仮定するとどうなるのでしょう。その結果、私たちは生まれや育ちの中(習慣、教育、思想など)で「これで良い」という人生を辿り始めます。もちろん、ここに自然治癒力が働きます。しかし、「これで良い」という生き方は往々にしてこの自然治癒力を凌駕します。そしてついには本来で本当の願いを持った人生との間にギャップが生じます。すると、そのギャップ(ブレ幅)に相応した呼びかけがあります。「生き方が違うよ!」という呼びかけです。

初めは小さく軽い病気として、しかし呼びかけに応えようとしない(生き方を変えようとしない)場合は、より大きく重い病気として呼びかけられるのです(病苦)。たとえ、その病気が現代西洋医学でいうがんの末期であっても、それは呼びかけに過ぎないという考えです。
<この呼びかけに応えた生き方をするということは、どんどん本来で本当の生き方に近づくことを意味します。(これを「悟り」というのかもしれません)しかし、本来で本当の生き方ができたとはいえ、永遠の生命を手にしたわけではありません。人はやはりいずれ年老いて(老苦)、誰もがその人生を終える(死苦)ようにできています。すべては生まれてきたからこその宿命(生苦)ですが、死にたくない私たちにはすべてが苦痛だと言えます。これは、お釈迦さまの言われた「四苦(生苦、病苦、老苦、死苦)」だと私は考えます。これこそ私が考える「死後の世界観」を踏まえた、「新しい人生観」です。

新しい病気観

このように考えると病気の意味がどう変わるのでしょうか? 病気とは、それはただ単に偶然起こった「不快」「不調」であり、今の生き方を継続するのに不便だから症状を緩和するべきもの(現代西洋医学の治療)の次元から、「その生き方でいいの?」という呼びかけであり、最終的には本来で本当の自分が生まれてきた目的に気がつくための、「本来で本当の自分自身が、今を生きる自分に宛てたメッセージ」なのかもしれないのです。
そうです。「すべからく病気の原因は願いを持った自分自身にある」という考え方です。
私はこれが大ホリスティック時代の病気観ではないかと、外来診療、在宅末期医療の中で思うに至りました。そのために、この病気観に対応すべき医療によって得られる健康こそが、大ホリスティックの健康観だと思うのです。

大ホリスティック医療者の目的

しかし、実はこの大ホリスティック健康観すら、その人が本来で本当の生き方をするための手段に過ぎません。本来で本当の霊性を開花した自分こそが、今この時代、この世界に願いを持って(何かをしたくて)生まれてきました。
私は大ホリスティックな医療者は、病気という切り口を通して、その人の生きる目的(生まれてきた目的)に共感し具現化するための真のサポーターであるべきだと思っています。そのために、実は大ホリスティック医療者は自らの霊性を開拓し、願わくば開花させんとするチャレンジャーであるべきだと思うのです。
さあ、大ホリスティック時代の大海原へ皆で船出しましょう。

『HOLISTIC MAGAZINE 2017』より

船戸 崇史 (ふなとたかし) 
船戸クリニック院長。当協会理事。
愛知医科大学医学部卒業後、岐阜大学第1外科入局。ブラックジャックに憧れて消化器外科を専攻。その後、がんと出会い、がんと共に生きる生き様、死に様に関心を持つ。「最期は家で」というささやかな願いを実現するためにH6年開業。それ以後も在宅医療体制を整備拡充。一方「reborn」と「健康な死」を目指した統合医療センターを4年前に開設し現在に至る。