コラム記事・研究会レポート

ホリスティックな健康観について

2009/03/31
コラム

本宮輝薫 (もとみやてるしげ)
心身一体研究所代表。鍼灸師。日本ホリスティック医学協会理事。

ホリスティックな健康観について

ホリスティックという言葉は、普通「全包括的」とか「全人的」とか訳されます。どちらもなじみのない言葉ですが、簡単にいえば、生命を単に身体的・生理的な面からだけでなく、心理的・精神的観点から、また社会的・環境的観点、さらには倫理的(またあえていえば宗教的・超越的)観点から、全体的にとらえていこうとする考えをあらわしています。
このようなホリスティックな観点に立つと、私たちの健康はどのようなものとして理解されるのでしょうか。

“単純に考えると”それは、身体的にも、精神的にも、社会・文化的にも、環境的にも、倫理的にも健康であることを意味することになるでしょう。 そして、次のようにまとめることができます

① 体の各部分の検査値がすべて正常でも、それだけでは健康とはいわない。
身体の全体的なバランスが保たれてはじめて健康といえる。
② しかし、体の健康だけでは不十分である。身体の健康は心の健康と統合されなければならない。
③ さらに、周囲の人々とのよい関係が健康には必要である(他者との関係性)
④ そして、人間の健康は社会的・自然的環境の健全さのなかでこそ保たれる。
⑤ 最後に、宇宙的なレベルまで視点を拡大し、人間の生命・地球の生命は宇宙的規模のスケールで 保たれていて、健康の究極はそれと一致・調和である。

ところで、人間はここまで完全になれるでしょうか。これほど「すべてそろった健康」は、かえって非人間的な幻想ではないでしょうか。このような完全主義的な考えとはまったく逆の発想から、健康について考えてみることもできるはずです。それは「健やかに病む」、「弱さのなかの強さ」、「障害のなかでの自己実現」、「死の受容」などといった逆説的・相対的な健康観です。

つまり、

① 調和を実現するのではなく、歪みに応じること
② 完全な健康を追求するのではなく、障害性も受け入れること
③ 神のような無限性を希求するのではなく、人間の有限性を認めること
④ 病苦のなかで、よろこびをもって生きること
⑤ 他者の苦しみに共感しつつ、ともに生きていくこと
⑥ 老いと死、弱さを受け入れ、そのなかで、力強く生きていくこと

といった、常識とは逆の性質をもつようなものになってきます。

前述したとおり、ホリスティックという言葉は全体性を意味します。ですから、生と死、強さと弱さなどをすべて含むこうした考えこそ、むしろホリスティックという名にふさわしいのかもしれません。
つまり健康とは正常、快活、元気、快適、安定、統一、調和、統合などといった肯定的な側面ばかりを意味するのではなく、むしろ病、老い、弱さ、死、苦悩、障害などの人間に避けることのできない「否定性」のなかで「よりよく生きていく」ことを意味するものといえるのです。