コラム記事・研究会レポート

環境にやさしいホリスティックライフの提案③

2022/09/07
ライフスタイル

変化の時代における暮らしのレジリエンス
~エネルギー編

◎文・安珠 あんじゅ (Earth Spiral・もりとアートの学校主宰/協会理事)

気候危機やコロナ禍により、地球環境も社会も不安定化する中で、私たちは戦争という大きな危機にも直面しています。そして、それはエネルギーや食料の安定供給に影を落としています。
私個人としては2006年にパーマカルチャーを学んだ後、化石燃料依存を減らし、少しずつ持続可能な暮らしにシフトしてきたことで、社会状況の変動による影響を受けにくいライフスタイルになっています。地方在住のためコロナ禍の前から、仕事もオンラインを活用していたので、慌てることもあまりありませんでした。
暮らしのシフトは気候変動を意識していましたが、その後の東日本大震災、コロナ禍、戦争などが次々にやってくる不安定な時代になるとは予想もしていませんでした。大きな変化の時代に入ったと捉えるならば、今後も古いものの崩壊と新しいものの創造の中で混乱が起き、不安定化するのはやむを得ないと思っています。
そのような時に考えるべきことは、いかに必要なライフラインを保つかということです。特に重要なのは水、食、エネルギーであり、パーマカルチャー的には重要なところにはバックアップを確保することを考えます。それが暮らしのレジリエンスを高めます。今回は、3つのうち、エネルギー面で個人ができることを紹介しつつ、レジリエンスやホリスティックな捉え方にも言及していきたいと思います。

暮らしのエネルギー収支の確認と対策

家計も収支を把握してから対策を考えるのと同様、自分のエネルギー収支を確認します。エネルギーは電気だけではなく、移動のためのガソリン、暖房や調理のための石油やガスなども含まれます。それを念頭に自分の暮らしのエネルギー収支を調べてみましょう。

収支を把握したら対策を講じます。いずれ枯渇する化石燃料を減らすことが気候変動対策にもなりレジリエンスをあげることになります。気候変動対策において、世間では、即座に再エネや原発などの話になりますが、最初に考えるべきことは「使うエネルギーの無駄をいかに減らすか」です。無駄を減らし、どうしても必要なものを「何で賄うか?」という手順で考えます。

気候変動対策は我慢ではなくQOLをあげる

個人としてすぐにできることは、日常の省エネ行動としてウェブサイトなどで情報を得ることができます。お金と時間がかかることとしては、高効率の家電への買い替え、家の断熱性能向上などがあります。断熱は冬の寒さだけではなく暑さ対策にもなり、家の中の温度差によって生じるヒートショックの対策にもなります。
また、便利さを追求するあまり無駄な電気を使っていないか?も考えてみましょう。例えば自然乾燥で済むところ、食器や洗濯物に乾燥機を使うのは本当に必要なのか疑問です。しかし、何らかの事情で必要であると「自覚的に」判断したのならば、それは否定されるものではありません。世間の流行やなんとなくではなく自覚的な消費行動をしていきましょう。
地方では難しい面もありますが、移動は公共交通機関を活用し、どうしても車が必要な場合には電気自動車を検討します。移動手段からのCO2排出が減れば、大気汚染が減り、健康への良い影響も考えられます。コロナ禍で注目されているテレワークの活用や職住一体のライフスタイルも移動によるCO2の排出を減らすことができます。
わが家では太陽光パネルの設置で自家消費分の5倍の発電量があるため100%を超え、残りは売電しています。家電の買い替え時期に高効率のものに替え、主に使っている車も電気自動車にしました。再エネで賄えれば、化石燃料の価格上昇には左右されません。寒冷地のため壁や窓の断熱はしっかり行い、冬は薪ストーブを暖房、調理に利用しています。給湯用のボイラーが石油のため、そこの転換を検討中です。
気候変動対策=エネルギーを減らす=我慢、と考える人が日本人には多いのですが、海外では生活のクオリティがあがると考える人のほうが多いようです。自然や人と共生する方向性で物事を考えるわけですから、調和的になっていくのは当然のことです。

出遅れた日本の気候変動対策

また、エネルギーシフトには、個人の努力だけでは限界があり、前述の対策が個人でもしやすいよう、システムを変えるのは自治体や政府の仕事です。環境に良いはずの再エネはメガソーラーや風力発電所の設置による環境破壊が目立ち非難の的となりますが、太陽光発電や風力発電自体が悪なわけではありません。本来のエネルギーシフトは、大規模集約型ではなく、市民主導で地域の小さな単位でデザインすべきものです。
エネルギーの地産地消が送電ロスや開発による環境負荷を減らし、地方経済の活性化につながります。また災害時のレジリエンスも高まります。未だに日本が先進国と思っている方が一定数いるようですが、残念ながら、経産省主導の気候変動政策は市民ではなく産業界を向いており、しかも、世界の流れから逸脱しており、このままいけば将来私たち市民は負担を背負わされ兼ねません。私たち市民が学び、声をあげる必要があるでしょう。

危機は危機ではない

エネルギー問題のような難しくて、面倒な、見たくないことにきちんと目を向けると、暮らしの中のブラックボックスが減っていきます。構造を理解し対策を考えられるようになることで、やみくもに恐れや不安を抱く必要がなくなり、人間が本来持つクリエイティブな力は問題解決のために発揮され、それは、生きるための力を取り戻す機会になります。
様々な危機が目の前にある現状を認識することは大事です。しかし、恐れや危機感だけから行動すると内的エネルギーは良い方向に向きません。ホリスティックな視点を持つならば、自分がする行為の延長が自然環境や他者にどのような影響を与えているかを想像できるはずです。
パーマカルチャーでは人類として守るべき倫理を簡潔に言い表しています。
それは「①地球に対する配慮 ②人に対する配慮 ③余剰物の分配」の3つです。
これらの視点があれば、不安や恐れからではなく、地球や他者への愛からの行動になるでしょう。そして、よりホリスティックな自分を生き、戦争などが起きることのない世界をつくるために寄与しているという喜びとともに行動することができるのではないかと思います。

 

暮らしの省エネ対策

Step1  エネルギー収支をチェック!

■ ガソリン、灯油、電気、ガスのチェック!
全体の使用量は領収証などで確認。さらに、電気を何にどれだけ使っているかは、家電の消費電力×1日の推定使用時間で1日の使用量を割り出す。

■ 節電は見える化が効果的
消費電力モニター(*)を使って消費電力を把握し、推移をグラフ化して「見える化」すると、ダイエットと同様にモチベーションが上がる。
*節電アドバイザー ecoco
https://www.hodogayadenshi.jp/ecoco/

Step2  節約できるところを探そう

Step1をもとに、減らせるところを探す。電力の場合、冷蔵庫など消費電力が小さくても24時間稼働しているものが意外に電力をたくさん使っている。
✔ 冷蔵庫などは高効率のものに買い替える。
✔ 照明はLEDに替える。
✔ 家の断熱性能を上げる。壁は新築じゃないと難しいが、窓はリフォームで入れ替えが比較的容易。
✔ 移動はできる限り公共交通機関を利用し、車が必要な場合には電気自動車に替える。

【おススメ図書・参考サイト】
『わが家のエネルギー自給作戦』枝廣淳子著(エネルギーフォーラム)
ゼロカーボンアクション30(環境省)
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/zc-action30/
家庭でできる省エネ(資源エネルギー庁)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/

Step3  必要なエネルギーをどう賄う?

CO2排出の問題だけではなく化石燃料は国内で賄えず、有事には供給が不安定になる。将来的には需要と資源開発が先細り、価格が高騰するリスクが高いなどのレジリエンスの低さがあるため、長期ビジョンとしては再生可能エネルギーへの転換を考える。
国レベルでのシステムチェンジが必要なので、世界に遅れをとる日本においては、すぐに理想的な変化は難しいが、正しいビジョンを持つ企業や自治体、人材をサポートできるよう、構造を理解し、市民として声をあげることが重要。

※次回は、世界で深刻化している「食料問題」をテーマに取り上げます。


『HOLISTIC NewsLetterVol.112』より